コンクリート診断士の試験には四択問題と記述式問題がありますが、今回の記事では、記述式問題を模範解答してみたいと思います。
多くの皆さんは、「四択問題は何とかなる。」けど… 「記述式がな~」みたいな感じで、ネックに思っているのではないかと思います。
確かに記述式問題を練習しようと思って、問題集を買って読んでみると、「テンプレートがまちまちでどうやって書いていけばいいのか定まらない。」という悩みが出てきます。
私もそうでした。
「テンプレートが定まっていたら書きやすいのに」という思いで、いろいろなものを参考にした結果、たどり着きました。テンプレートを。
論文が苦手な人に最適だと思います。気になる方は、こちらをどうぞご覧下さい。記述式のテンプレートを紹介していますので、参考になると思います。
【模範解答】記述式のテンプレートをコンクリート診断士が紹介!
今回は、このテンプレートのような文書にするまでの、手順を過去問で分かりやすく解説していきます。
私は、コンクリート診断士、コンクリート主任技士を取得しています。
特に、コンクリート診断士の取得を目指している方に有益な情報を発信すること目指しています。
それでは解説していきます。
記述式問題を書く手順
合格できる記述式問題を書くには必ずキーワードが必要になります。そのキーワードは、必ず問題の中にあり、それは言わば作成者からのメッセージです。このメッセージにきちんと気づかなければ基準点に届きません。
そのためには、問題文、それについている写真や調査表などの条件を頭に入れましょう。すると、どれがキーとなるワードなのか気づくと思います。
キーワードに気づくためには、劣化現象のメカニズムを理解しておくことが絶対条件です。ここでは詳細には触れませんが、劣化現象についての記事も書いていますので、ぜひご覧ください。
設問に解答する手順
まずは、解答用紙に直接書くのではなく、問題用紙の余白に整理しながら書いていきましょう。
手順1:問題からキーワードを抽出する。
手順2:設問を意識し、簡単な文書にする。
手順3:簡単な文書を書いたら、肉付けをしましょう。
手順4:問2と問3はセットと考え、劣化過程を意識し補修・補強方法を決定し、その後に調査方法を選択しましょう。
注意1:問の説明をしっかり理解し、その答えを記述することが大切です。
注意2:じっくり30分くらいは、記述式の展開を練りましょう。直ぐに解答用紙に記述することは絶対にダメです。
実際の記述式問題を解く
問題文(2021年の問題Ⅱ)で、具体的に解答をしてみたいと思います。
図1および図2に示すのは、北関東の内陸部に位置するRC中空床板橋である。本橋梁は供用開始から50年が経過しており、その概要を表1に示す。
舗装上面に局部的な変状が頻発するような状況であったため、舗装を撤去したところ、床板上面のA部に写真1に示す変状が見られ、その真下に当たる床版下面側のB部では写真2に示す変状が見られた。そこで、当該箇所の床版に対して調査を実施したところ、表2のような結果が得られた。
さらに、この橋梁の桁端部のC部では写真3に示す変状が認められた。
本橋梁は今後30年間供用する予定である。この橋梁に関して、以下の問いに合計1000字以内で答えなさい。
【問1】
上部工のA部、B部、C部の変状の原因をそれぞれ推定し、その推定理由を列挙しなさい。また、A部において変状が局部的に進行した理由を述べなさい。
【問2】
本橋梁への対策を立案するにあたって、A部、B部、C部のそれぞれに対して必要な調査方法を推定し、調査目的を述べなさい。
【問3】
問2を踏まえてA部、B部、C部のそれぞれに必要な対策を提案しなさい。
【※図や表は、載せてないので入手してください。】
問題文からキーワードを抽出する
まずは、問題文や写真、調査結果をから重要なものを抽出していきます。
●問題内の文章から抽出
①北関東の内陸部
②RC中空床板橋(PC橋ではないことに注意)
③供用開始から50年経過
●写真、側面図、断面図から抽出
A部:床版上面が土砂化
B部:その下床版に橋軸直角方法にひび割れ発生(析出物あり、錆び汁なし)
C部:桁端部の鉄筋腐食による剥落(側面図と断面図より橋面の水が勾配的に集中する箇所)
●橋梁概要と調査結果より抽出
①円筒型枠上下のコンクリートの厚さが設計と異なる。(→初期の施工不良である)
②防水層の施工がない。(→橋面の雨水がコンクリート表面にダイレクトに影響する)
③交通の状況が多い。(→床版への負荷が継続的に作用する)
④凍結防止剤の散布あり。(→冬季では橋面からの水には塩分が含まれている)
⑤B部表面は塩分濃度が高い。(→ひび割れは貫通していると想定できる)
⑥ASRの可能性は低い。
このあたりのキーワードを問題用紙の余白に箇条書きしてください。
この辺りで、大体の予想をつけることができれば、後は、どうやって論理的に書くかがキーになります。
抽出したキーワードから文章にする
次に抽出したキーワードを組み合わせ、問を意識し簡単な文書にしていきます。まだ、解答用紙には書きません。余白で文章にします。
問1
問1では変状の原因の推定理由を列挙しなければなりませんので、このような形で記載することになると思います。
A部について
まず、変状は何かを考えます。すると、答えは、床版の格子状のひび割れです。これを土砂化といいます。
次に原因を考えます。
ここで抽出したキーワードを意識します。
私は、こう考えました。
→ 施工不良と交通量が多いため、土砂化した とします。
これを肉付けすると、
解答例
の様な感じになると思います。
劣化原因を推測した上で、文章にします。ここでの劣化原因は、上でも書きましたが、「施工不良と交通量が多いこと」です。ここを明確にしておくことで問2,問3に一貫したストーリーで論じることができます。
B部について
同じように、変状は何かを考えます。すると、答えは、橋軸直角方向に入ったひび割れで、かつ、析出物が見られます。
次に原因を考えます。
ここで抽出したキーワードを意識します。
私は、こう考えました。
A部の損傷の直下にひび割れが発生したことから
→ 土砂化の影響で下床版にひび割れが生じた。 とします。
要するに、A部が損傷したことで、B部の損傷が生じたと考えました。
これを肉付けすると、
解答例
ここでの劣化原因は、「上床版が損傷したこと」になります。
C部について
同じように、変状は何かを考えます。すると、答えは、鉄筋腐食によるコンクリートの剥落です。
次に原因を考えます。
ここで抽出したキーワードを意識します。
私は、こう考えました。
→ 塩害により鉄筋が腐食し、その影響で剥落した。とします。
これを肉付けすると、
解答例
ここでの劣化原因は、「伸縮装置が劣化し塩分を含んだ水が垂れ落ちたこと」になります。
A部において変状が局部的に進行した理由
ここでは、床版劣化がなぜ促進するかの知識を問われています。
この場合は、水です。水の影響で損傷が促進されます。
なぜかということを説明します。
輪荷重により橋面の水は、コンクリート面に水圧がかかります。コンクリートはポーラスなため、その隙間に侵入します。その繰り返しの作用(水圧)で、徐々にコンクリートに損傷を与えていきます。その結果、繰り返し荷重と水圧の2つの作用で促進されると言われています。
→ 防水層がないため、水の影響が作用する。とします。
これを肉付けすると、
解答例
問2
問2では、本橋梁への対策を立案するための必要な調査方法を選定し、調査目的を述べる問題です。
なので、問3を想定したうえで、問2を選定する必要があるようです。
では、まず、必要な対策を考え、それから、調査方法を選定していきましょう。
A部について
A部の劣化原因は、「施工不良と交通量が多いこと」であり、劣化過程では、貫通ひび割れが入っていると想定できるため、劣化期にあたります。
よって、補強方法を考えなければなりません。
この場合の補強方法は、「上面増圧工法と防水層を施工する」と判断します。
なので、
必要な対策とは、上面増圧工法と防水層を施工 になります。
理由は、上床版厚が薄いため床版を厚くすることで、耐久性を向上させることができます。そして、水の影響で損傷が促進するため、防水層を施すことがよいと考えます。
調査方法について考えます。
必要な対策を上面増圧工法とするためには、現状の構造物の耐荷性能を評価する調査方法がいいと思います。
なので、載荷試験や振動調査により橋梁の変位量や固有振動数を把握することがいいのではないかと思います。
解答例
B部について
B部の劣化原因は、「上床版が損傷したこと」なので、上床版を改善すれば下床版の劣化進行は抑制できると考えます。
なので、劣化過程では、劣化期ですが上面で補強するため、下床版の対策とは、現状を回復させる「ひび割れ注入や断面修復」とします。
必要な対策とは、ひび割れ注入や断面修復 になります。
調査方法について考えます。
必要な対策を「ひび割れ注入や断面修復」とするためには、ひび割れ深さの調査や自然電位法になると思います。
ひび割れ深さの測定は、貫通しているかどうかを特定します。
自然電位法は、鉄筋腐食を判別できます。なので、腐食範囲、つまり補修範囲を特定することができます。
解答例
C部について
C部の劣化原因は、「伸縮装置が劣化し塩分を含んだ水が垂れ落ちたこと」であり、劣化過程は、加速期と想定でき、対策は、「伸縮装置の取り換えと現状回復」とします。
必要な対策とは、伸縮装置の取り換えと現状回復(断面修復) となります。
理由は、伸縮装置の劣化により水が桁下へ垂れたと想定できるため、伸縮装置を取り替えることで、問題が解消されます。そして、劣化部は、現状を回復させるため断面修復を行うことで対応します。必要であれば、表面被覆工法も検討しておくことも必要と考えます。
調査方法について考えます。
必要な対策を「現状の回復(断面修復)」とするためには、打音検査や塩分含有量の測定になると思います。
打音検査は、鉄筋腐食により剥離している箇所を特定します。また、塩分含有量の測定は、塩分濃度が高い箇所を把握し、コンクリートをはつり取ることを目的とします。
自然電位法により鉄筋の腐食範囲を調査することもいいと思います。
解答例
問3
問2を踏まえて、必要な対策を述べます。理由も添える方が説得力があると思い、私は書きました。
まとめ
①いきなり解答用紙に書かないこと。
②キーワードを問題から抽出すること。
③簡単な文書を書き、次に問を意識した文章に肉付けすること。
④調査方法と補修・補強方法はセットで考えること。
⑤問全体を意識し文章の構成を練る。
劣化原因 → その理由 → 調査方法 → 補修・補強方法
⑤問題文をよく読み、解答すること。
⑥文書は、結論を述べ、その後には 理由、そして、具体例の流れを意識すること。
⑦解答用紙には30分あれば解答できる。
それまで、じっくり余白で文字数や構成を考える。
こちらも一緒にご覧ください。より論文が理解できると思います。
【模範解答】記述式のテンプレートをコンクリート診断士が紹介!
複合劣化の記述式問題の手順を簡潔に説明しています。ぜひご覧ください。
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