【リニューアル解説】化学的侵食の全体像をつかむ試験で使える知識をプラス

化学的侵食 リニューアル版 コンクリート診断士

こんにちは。ポッキーでございます。

この記事は、Xでアンケートを採らせて頂き、皆さんからの意見を聞き、その要望を基に作成しました。その内容は、コンクリート診断士の劣化機構の中の「化学的侵食」の記事です。約4割の方が希望されていました。

アンケート

 

劣化機構に、酸類、アルカリ類、塩類、油類、腐食性ガスなどがあります。過去には、このブログでも化学的腐食を分かりやすく解説していますが、もう少し踏み込んが記事に今回致しました。これで、基礎的知識が見に付き、今後、化学的侵食に関する問題が出題された時に確実に点数を稼げるものと思います。

まずは、化学的侵食の概要を説明したいと思います。

最後までご覧ください。

酸類による腐食 

酸がコンクリートに触れると、化学反応が起こり劣化します。

例えば、硫酸(H₂SO₄)は以下のような反応を起こします。

反応例 

コンクリートの主成分である水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)は酸と反応して溶解性の高い硫酸カルシウム(CaSO₄)を生成します。生成された硫酸カルシウムは水に溶けやすく、コンクリート内部が弱くなります。 

身近な例 

工場や下水施設から漏れた酸性廃液がコンクリートを侵食します。

 

アルカリ類による腐食 

アルカリ物質(例えば、NaOHKOH)がコンクリートに影響を与える場合もあります。これは主に「アルカリシリカ反応」として知られていますが、アルカリシリカ反応とはことなります。

アルカリ類のメカニズム 

アルカリ溶液がコンクリート中の水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)やセメント中の化学成分を侵食します。 これにより、コンクリートの組織が徐々に弱くなり、最終的に劣化が進行します。

身近な例 

アルカリ性の洗浄液が誤ってコンクリートに使われた場合。

 

塩類による腐食 

塩化物イオン(Cl⁻)は鉄筋コンクリート内部の鉄筋を腐食させます。 

反応例 

鉄筋は通常酸化被膜で守られていますが、塩化物イオンが鉄筋表面に達すると、腐食が進行します。その後、酸素や水と反応して酸化鉄(錆)が発生します。 

身近な例 

冬季の道路融雪剤や海岸地域の塩害。

 

油類による腐食 

油自体はコンクリートに直接化学反応を起こしませんが、一部の油(例えば、酸化した油や脂肪酸)は化学反応を引き起こすことがあります。また、油がコンクリートに浸透すると強度が低下します。 

 

車両整備工場や油漏れのある機械付近のコンクリート床が脆くなるケース。

 

腐食性ガスによる腐食 

二酸化炭素(CO₂)や硫化水素(H₂S)などのガスがコンクリートに影響を与える場合があります。 

炭酸化 

コンクリート内部の水酸化カルシウムがCO₂と反応すると、炭酸カルシウム(CaCO₃)が生成され、アルカリ性が低下します。アルカリ性が低下すると、鉄筋を錆から守る能力が失われます。

 硫化水素(H₂S 

下水管内の硫化水素は、硫酸(H₂SO₄)を生成してコンクリートを酸化的に侵食します。

 まとめ 

これらの劣化機構により、コンクリートは徐々に弱くなり、寿命が短くなります。対策としては、防水や表面保護、適切なコンクリート材料の選定などが重要です。

 

 これからは少しマニアックは情報を5つ発信してきます。

マニアックな情報

1. 酸性硫酸塩侵食の「エトリンガイト生成」 

硫酸がコンクリートに侵入すると、セメント水和物(C₃A:三カルシウムアルミネート)と反応して「エトリンガイト」という膨張性の鉱物を生成します。これがコンクリート内部に膨張応力を引き起こします。 

反応例 

硫酸カルシウム(CaSO₄)とセメントのC₃Aが反応。この膨張がひび割れや崩壊を引き起こします。 

マニアックポイント 

エトリンガイトは水和初期にも生成しますが、過剰な硫酸塩が後から侵入すると「二次エトリンガイト」として再形成され、これが特に危険です。 

2. 塩化物イオンの「界面効果」 

塩化物イオン(Cl⁻)は鉄筋表面に吸着し、酸素とともに「局所電池」を形成します。この局所電池によって鉄筋の腐食が促進されますが、特に鉄筋の「突起部」や「割れ目」で腐食が進みやすいのが特徴です。 

マニアックポイント 

塩害の進行速度は、表面の水膜の厚さや塩化物イオンの濃度だけでなく、鉄筋表面の粗さにも影響されます。粗い表面はCl⁻を保持しやすく、腐食が進行します。 

3. アルカリ類による化学的腐食

主な要因は、 高濃度のアルカリ(NaOHKOHなど)にコンクリートが長期間さらされることです。

メカニズム: アルカリ溶液がコンクリート中の水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)やセメント中の化学成分を侵食します。 これにより、コンクリートの組織が徐々に弱くなり、最終的に劣化が進行します。

劣化の特徴: コンクリートが化学的に分解され、強度低下や空隙の増加が生じます。

アルカリ成分が関与

化学的腐食もASRもアルカリ(Na⁺K⁺)が主な反応の駆動力となります。

化学反応によるコンクリートの劣化

両者とも化学反応が原因でコンクリート内部に変化が生じ、劣化やひび割れを引き起こします。

水の関与

水分が反応を助長する重要な要因であり、湿潤環境下で進行が加速します。

ここでASRとの違いはなんなのかということを下の表で整理してみます。

相違

  

4. カルシウム溶脱現象 

コンクリート内部の水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)は水中で溶解しやすい性質を持ちます。特に長期間、水が滞留する場所ではCa(OH)₂が徐々に失われる「カルシウム溶脱」が起こります。 

反応例 

マニアックポイント

カルシウム溶脱が進むと、コンクリートの「多孔性」が増し、水や化学物質の侵入が容易になります。

特に軟水(ミネラル濃度が低い水)はCa²⁺を吸収しやすく、溶脱速度が上がります。 

5. 硫化水素(H₂S)の「微生物腐食」 

硫化水素(H₂S)は化学的腐食だけでなく、特定の微生物(硫黄酸化細菌)が関与する「微生物腐食」を引き起こします。この細菌はH₂Sを酸化して硫酸(H₂SO₄)を生成し、コンクリートを急速に侵食します。 

マニアックポイント

特に下水道内では、H₂Sのガスがコンクリート壁面に付着し、微生物の活動により酸が発生します。

硫黄酸化細菌(例:Thiobacillus)はpH12という極めて酸性の環境でも活動できるため、腐食速度が非常に速いです。 

補足 

これらの内容は、以下のような専門書や論文、業界ガイドライン、国際的な基準に基づいています。参考となる主な文献や基準をいくつか挙げますので、必要に応じて確認してください。 

1. 基礎知識を網羅的に学ぶための文献

『コンクリート工学ハンドブック』(日本コンクリート工学会編)

コンクリートの劣化機構や試験法について詳細に記載されています。エトリンガイトやアルカリシリカ反応なども具体的に解説されています。

『セメント化学』(化学工業社)

セメント化学の基本反応や水和生成物、化学的腐食について詳述しています。 

2. 硫酸腐食やエトリンガイトに関する情報

『セメント系材料の劣化と防止技術』(山田一夫ほか)

硫酸侵食、二次エトリンガイト生成のメカニズムについて詳しい解説があります。

• JIS A 6203(コンクリート中のエトリンガイト試験法)

エトリンガイトの生成・評価に関する基準が記載されています。 

3. 塩害や鉄筋腐食に関する文献

『鉄筋腐食とその防止技術』(日本建築学会編)

塩化物イオンの腐食メカニズムや防止方法について記載。鉄筋表面での局所電池形成の詳細も確認できます。

『コンクリートの塩害診断技術』(土木学会編)

塩害の影響や評価技術、実例について詳細なデータがあります。 

4. アルカリシリカ反応(ASR)について

『アルカリシリカ反応とその対策』(土木学会編)

ASRの化学反応、ゲルの挙動、対策技術について網羅されています。

• RILEM AAR-3試験法(International Union of Laboratories and Experts in Construction Materials, Systems and Structures

国際的なアルカリシリカ反応の試験法。 

5. 硫化水素や微生物腐食に関する資料

『下水道管渠の劣化メカニズムと維持管理』(日本下水道協会)

硫化水素ガスによる微生物腐食や防食対策が具体的に記されています。

• ACI 201.2R-16Guide to Durable Concrete)(American Concrete Institute

腐食性ガスや微生物腐食の国際的なガイドライン。 

6. カルシウム溶脱に関する資料

『水中コンクリートの耐久性』(日本コンクリート工学会編)

水中環境でのカルシウム溶脱現象について詳しく解説されています。

• EN 206(欧州コンクリート耐久性基準)

カルシウム溶脱や軟水環境におけるコンクリートの耐久性についての規定。 

補足:参考にしたい学術論文やレポート

• Yamada, K., et al., “Mechanisms of sulfate attack and secondary ettringite formation in concrete” (Cement and Concrete Research).

• Mehta, P. K., & Monteiro, P. J. M., “Concrete: Microstructure, Properties, and Materials”.

 なぜ、化学的腐食に苦手意識があるのか?

コンクリート診断士を受けようしている方は化学的腐食を苦手としています。なぜなのか、また、どういう事を意識して勉強すればいいのか、プロならではの視点で教えてその理由と克服方法についての視点で説明します。 

1. 苦手とする理由 

(1) 化学反応が抽象的で理解しにくい

化学式や反応過程が馴染みが薄く、イメージが湧きにくいと思います。 例えば、「エトリンガイト」や「アルカリシリカ反応」の生成物など、コンクリート内部の現象を視覚的に捉えるのが難しい。 

(2) 知識の範囲が広く、断片的になりがち

酸、アルカリ、塩、ガスなど、さまざまな腐食要因があり、それぞれに異なる反応や影響があります。これが、試験対策での学習を複雑にしています。 

(3) 実務経験とのギャップ

実務では「現象の結果」を見ることが多く、化学的なメカニズムを深く理解する機会が少ないと考えます。 そのため、机上の理論として覚えるだけでは応用問題に対応しづらくなっていると考えます。

2. 克服するための意識ポイント 

(1) メカニズムの「流れ」を押さえる 

化学的腐食の勉強では、各劣化の原因反応過程結果の流れをストーリーとして覚えることが重要だと思っています。

例れば、硫酸腐食の流れで説明します。

1. 硫酸がコンクリートに侵入する。

2. 水酸化カルシウムと反応し、可溶性の硫酸カルシウムを生成する。

3. エトリンガイトが生成され、膨張やひび割れが発生する。

このように、反応を単独で覚えるのではなく、「現象の流れ」を理解することを意識します。 

(2) 身近な例やイメージで捉える 

化学的腐食を実務や日常の具体例に結びつけると、理解が深まります。 

例れば、 酸性廃液工場排水がコンクリート床を溶かしているイメージがあると思います。

これらを実際の写真や現場事例と結びつけることで、抽象的な反応が具体化されます。 

(3) 化学式を無理に暗記しない 

化学式を丸暗記するのではなく、反応の意味や目的を理解します。 

例えば、「水酸化カルシウムが硫酸と反応して、溶けやすい硫酸カルシウムを作る」というメカニズムが重要です。式の具体性よりも反応の結果と影響を把握することに集中します。 

(4) 図解を活用する 

文章だけで理解するのは難しいので、図やイラストを活用しましょう。視覚的な学習が理解を大きく助けます。 

(5) 試験問題を「具体化」して考える 

試験では劣化現象に関する「原因」と「対策」を書かせる問題が多いです。以下の3ステップで勉強すると効果的です。

1. どの劣化機構が原因かを見極める

2. その劣化が進行するプロセスを説明できるようにする

具体的に、反応の原因化学的変化劣化現象の順で考える。こんな感じです。

反応マッピング

加えて以下に、化学的腐食に関する「劣化因子と反応のマッピング」をまとめた表を作成しました。この表を活用すれば、劣化因子、化学反応、主な影響を一目で理解できます。 

化学的腐食:劣化因子と反応マッピング

反応マッピング2

3. 適切な対策を述べる

防水塗装や適切なセメント・骨材の選定など、実務的な視点で対策を考える。 

まとめ

いかがでしたでしょうか。この記事では、具体的に劣化因子、化学反応、主な影響を表でまとめて分り易く致しました。

化学的腐食は、イメージがしにくいため、半ば強引に想像して記憶に定着させる方法がいいのではないかと思います。

劣化の基本的なメカニズムは、化学反応によりコンクリートとして結合力が弱体化することにあります。ここをベースとして、どうして弱体化するのかを化学式を頭に入れ、そして写真等でイメージしておくことがいいのだと思います。私もこのようにイメージして覚えています。弱体化することを理解していると、調査方法や補修補強方法も自ずと提案できるのではないかと思います。

少しは、化学的侵食についての苦手意識がなくなったでしょうか。この記事と併せて、過去の記事もご覧ください。こうすることでもっと皆さんの理解が広がると思っています。それでは、また。

【コンクリート診断士合格に必須】コンクリートの劣化原因である化学的侵食を解説

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