こんにちは。ポッキーです。
コンクリートを知る上でクリンカーを制する必要があります。本日の記事は、ここに重点を置いて解説していきたいと思います。
セメントの性質が、その製造過程で含まれる「成分の量」によって大きく変わるというのは、コンクリートの配合設計や品質管理を理解する上での超重要ポイントです。
セメントが最終的に持つ「いつ、どれくらいの強度が発現するか」「どれくらい熱を出すか」「化学的な攻撃に強いか」といった特性は、主原料である石灰石や粘土などを高温で焼成して得られる**「クリンカー」に含まれる4つの主要な組成化合物**の比率で決まります。
クリンカーとは、セメントを製造する過程で生成される主要な中間材料のことです。
クリンカーは、以下の手順で製造されます。
1. 原料の準備 クリンカーの主原料として、主に石灰石、粘土、けい石などが使用されます。
2. 高温での焼成 これらの原料を高温で焼成することによってクリンカーと呼ばれる粉末が生成されます。
3. 急冷 焼成された原料は、その後急冷され、クリンカーが得られます。

麻生ラファージュセメント(株)引用
この組成比率を意図的に調整することで、私たちが現場で使い分ける様々な種類のセメントが生まれているわけです。
今日は、この組成化合物(セメントクリンカーの4つの主成分)が、セメントの性質にどのように影響を与えるのか、詳しく解説していきますね!
セメントの性質を決める4つの主要組成化合物
セメントの性能は、けい酸三カルシウム (C₃S)、けい酸二カルシウム (C₂S)、アルミン酸三カルシウム (C₃A)、**鉄アルミン酸四カルシウム (C₄AF)**という4つの主成分によって決定されます。
それぞれの化合物の「量(含有量)」が多いか少ないかによって、セメントの水和反応速度や、それに伴う特性が大きく変わります。
1. けい酸三カルシウム(C₃S)の増減による影響
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含有量
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水和反応速度
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強度発現との関係
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水和熱/収縮
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化学抵抗性
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多い
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比較的早い
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28日以内の早期強度に寄与
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中
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中
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【ポイント】C₃Sは、セメントが水と反応する初期段階で強度を出す役割を果たします。
早強ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントに比べてC₃Sの含有率を多くすることで、初期の強度発現を高めています。早く型枠を外したい、急いで強度を確保したい場合に有効です。
C₃Sは、水和反応が比較的早く進むため、材齢28日以内の比較的早い時期の強度発現に最も貢献します。
• 含有量を増やす 早強性の向上
早期に強度が必要なコンクリートを製造するために、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントでは、C₃Sの含有率を多くしています。これらのセメントは、JIS R5210において、1日目の圧縮強度が規定されています(早強は、超早強は)。
• 早期脱型・早期供用:材齢初期(1日目など)から高い強度を発現します。
• 施工サイクル短縮:特にプレキャスト製品の製造や、PC構造物の緊張作業において、早期に所定の圧縮強度を確保することで、施工サイクルを速めることができ、生産性の向上につながります。
2. けい酸二カルシウム(C₂S)の増減による影響
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含有量
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水和反応速度
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強度発現との関係
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水和熱/収縮
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化学抵抗性
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多い
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遅い
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28日以降の長期強度に寄与
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小
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大
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【ポイント】C₂Sは、ゆっくりと水和反応が進むため、長期的な強度増加と低い水和熱、高い化学抵抗性をもたらします。
低熱ポルトランドセメントでは、水和熱を下げるためにC₂Sの含有率が中庸熱ポルトランドセメントよりも多くなる傾向があり、JIS R5210(ポルトランドセメント)では、低熱ポルトランドセメントのC₂Sの含有率の下限値が規定されています。マスコンクリートなどで温度ひび割れを抑制したい場合に適しています。
C₂Sは、水和反応が遅いのが特徴で、その強度発現は主に材齢28日以降に貢献します。
• 含有量を増やす 長期強度と低発熱性の向上
① 水和熱が小さいため、低熱ポルトランドセメントでは、温度ひび割れ対策として水和熱を抑えるために、C₂Sの含有率の下限値がJIS R5210で規定されています。水和熱の低減は、特に断面寸法の大きなマスコンクリートの温度ひび割れ抑制に有効です。
② また、C₂Sは化学抵抗性が高いという特徴も持っています。
3. アルミン酸三カルシウム(C₃A)の増減による影響
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含有量
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水和反応速度
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強度発現との関係
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水和熱/収縮
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化学抵抗性
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多い
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非常に早い
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1日以内の超早期強度に寄与
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大
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小
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【ポイント】C₃Aは、水和反応が最も速く、初期の発熱量に大きく関わります。
C₃Aの含有量を少なくすることで、水和熱を低減できます。また、C₃Aは化学抵抗性(特に硫酸塩に対する抵抗性)が小さいため、耐硫酸塩ポルトランドセメントなど、高い化学抵抗性が求められるセメントでは、この成分が抑制されます。
C₃Aは4つの成分の中で最も水和反応が非常に早いですが、それと同時に水和熱が最も大きく、化学抵抗性が小さい(特に硫酸塩に対する抵抗性が低い)というリスクを抱えています。
• 含有量を抑える 温度ひび割れと硫酸塩攻撃の抑制
◦ 水和熱を抑制する目的で製造される中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントでは、発熱源となるC₃Aの含有量を抑える傾向にあります。
4. 鉄アルミン酸四カルシウム(C₄AF)の増減による影響
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含有量
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水和反応速度
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強度発現との関係
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水和熱/収縮
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化学抵抗性
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|
多い
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かなり早い
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ほとんど寄与しない
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小
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中
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【ポイント】C₄AFは強度への寄与は少ないですが、水和反応自体は比較的早く進みます。
まとめ
このように、セメントクリンカーの組成化合物の含有量を変えることで、各種のポルトランドセメントが製造されています。
例えば、マスコンクリートの温度ひび割れ抑制対策として、発熱量の少ないセメント(低熱、中庸熱)水和熱が特に大きいC₃Aの含有量を抑え、水和が遅いC₂Sの比率を高めていることによるものです。
皆さんがセメントの選定を行う際(例えば、温度応力解析の結果、ひび割れ抑制のためにセメントの種類や混和材の変更を検討する場合)には、この組成の違いが、長期的な耐久性や初期のひび割れリスクにどう影響するかを理解しておくことが非常に重要です。
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化合物名
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略称
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水和反応速度
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強度発現との関係
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水和熱
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化学抵抗性
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けい酸三カルシウム
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C₃S
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比較的早い
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28日以内の早期強度に寄与
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中
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中
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けい酸二カルシウム
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C₂S
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遅い
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28日以降の長期強度に寄与
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小
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大
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アルミン酸三カルシウム
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C₃A
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非常に早い
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1日以内の超早期強度に寄与
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大
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小
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鉄アルミン酸四カルシウム
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C₄AF
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かなり早い
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ほとんど寄与しない
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小
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中
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麻生ラファージュセメント(株)引用
クリンカーの特徴を理解するためのレシピに比喩した考えた方もあります。
セメントのクリンカー組成の違いは、料理のレシピの違いに例えられます。クリンカーの主成分は、料理の主要な材料(例えば、小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー)のようなものです。
• 早強セメントは、すぐに膨らんで固まるために、反応性の高いやという「速効性の材料」を多く配合したレシピです。
• 低熱セメントは、ゆっくりと時間をかけて固まるために、水和熱の小さいという「持続性の材料」を多くし、「速効性の材料」を抑えたレシピです。
• 混合セメントは、クリンカーという「高コストで高熱を出す主要材料」の一部を、高炉スラグやフライアッシュという「リサイクル材料」に置き換えることで、コストや発熱量を抑え、特定の耐久性を高めるという、ハイブリッドなレシピと言えます。

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